(左から)裁かれる空軍少佐役:松下洸平 弁護人役:橋爪功
世界的ベストセラー作家フェルディナント・フォン・シーラッハが手がけた初戯曲の日本初上演『TERROR テロ』が1月16日(火)から1月28日(日)まで紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYAにて上演される。
当日券情報は公式サイトにて。
本作はテロリストにハイジャックされた民間旅客機を撃墜した空軍少佐の判決を巡る法廷劇で観客が有罪、無罪を評決する衝撃的な作品だ。
シーラッハは刑事事件弁護士になった1994年以来、自ら担当した事件などを物語に盛り込みつつ、創作活動を続けてきた。短く、淡々とした描写ながら、数々の事件で得てきた経験と鋭い観察眼で人間の業というものに深く分け入り、その作風は多くの読者を虜にしています。“犯罪”を通して「人はどう生きるべきなのか」を問いかける作品群は、常に罪と隣り合わせで生きる私たちに真実味と緊張感をもって語りかけてくる。
出演は、日本を代表する実力派俳優の一人、橋爪功が弁護人役を、被告の犯罪性について追及する検察官を神野三鈴が演じる。裁かれる空軍少佐には松下洸平、飛行機乗客の遺族で被害者参加人に前田亜季、証人として登場する軍人役に堀部圭亮、廷吏役に原田大輔。またこの作品を膨大なセリフで構築し、采配する裁判長役に今井朋彦など、そうそうたる実力派の俳優たちが、知性と倫理観を究極まで追及される難易度の高い法廷を彩る。
観客が有罪、無罪の評決に参加し、その結果が芝居の結末になるという前代未聞の鮮烈な法廷劇に、眼も耳も心も奪われるだろう。
東京ほか、兵庫・名古屋・広島・福岡公演あり。
【STORY】
2013年7月26日、ドイツ上空で民間旅客機がハイジャックされた。犯人であるテロリストたちは、7万人が熱狂しているサッカースタジアムに飛行機を墜落させて多数の命を奪うと共に、世界的なニュースになることを目論んでいた。
しかし、緊急発進したラース・コッホ空軍少佐は、独断でこの旅客機を撃墜する。
乗客164名の命を奪って、7万人の観客の命を守った彼は英雄なのか、犯罪者なのか。裁判は民間人が評決に参加する参審裁判に委ねられる。検察官による論告、弁護士による最終弁論を経て、判決は一般の参審員(観客)が決めることとなる。観客の評決によって、無罪と有罪の二通りの結末を持つ衝撃の法廷劇。
【橋爪功コメント】
年明け早々おつき合いいただくには、『TERROR』に込められた想いとテーマは、少々大きく、重きに過ぎるものかも知れません。何せ、ドイツの辣腕弁護士にして小説家であるシーラッハ氏が、長年温めた題材を初めて戯曲にしたためた作品ですから。けれどテロは遠い外国のことではなく、日本の私たちにとってもすぐそばに迫っている脅威だと思うのです。
不特定の膨大な情報が流れ込んでくる、種々の報道やネット環境とは違い、演劇は精査された知識と思索に対して開かれた「窓」です。普段は目を背けがちな、世界と人間の抱える問題について劇場でひと時、私たちと一緒に心を傾けていただくお客様に深く感謝致します。
【今井朋彦コメント】
この作品の主役は事件そのもので、主体は参審員であるところのお客様です。裁判長は証言を引き出す、参審員に結論を導く役回りだろうと意識しながら稽古してきました。舞台上の登場人物が話しを聞かせている相手は、参審員である客席です。稽古場でも常にそのことを意識してきましたが、実際に客席空間を前にすると稽古場とはまったく違った感覚で、稽古場で想像していたより芝居の”アテ”が見つかった気がしています。初日を迎えれば、さらに感じ方や芝居そのものも変わるかもしれません。作品の最大のポイントは、有罪か無罪かの判断を最終的には観客が下さなければならないという点。登場人物たちの台詞や仕草の一つ一つが、有罪に傾いたり無罪に傾いたりと、見る側の気持ちを変えていくのをを楽しんでいただければと思います。
【松下洸平コメント】
これまでの自分の演劇経験の中では最高に難しい作品でした。今回のコッホ少佐は超優秀な軍人という設定ですし、声を荒げたら負け、という裁判の中で毅然としていなくてはならない役です。厳しい質問に誠実に回答しながらも、感情は動きます。でも、それを表せない。感情を表したらダメな役というのは本当に大変で。。。(笑) 先日の稽古では、じっと手を組んでいた腿のあたりに手の後がついてしまうくらい汗をかいていました(苦笑) 客席の皆さんは芝居を観ているのか、参審員として本物の裁判を観ているのか、しばしば錯覚する局面があると思います。緊張感のある舞台なので、そこを楽しんでいただきたいですね。自分としては今回の作品に参加できたこと、今回いただけた役を演じるのは大きなチャレンジなので、全力で明日からの本番と向き合っていきます。
【神野三鈴コメント】
不器用な私に、台詞の一語一音まで緻密な演出をつけて下さった森新太郎さんや、橋爪功さんを始めとする頼もしい共演陣に支えられ、稽古の日々を走り切ることができました。
劇場とは本来、束の間日常を忘れ、心を解放するために足を運ぶ場所。けれど『TERROR』は、お客様に「命」や「罪」についての深い思索と大きな決断を迫ります。だからこそ、お客様と私たちの間には想像を共有したことで壮大なドラマの伽藍が築かれ、終幕には互いの健闘を讃え合う拍手が響くはず。この舞台はきっと、そんな奇跡のような時間を生み出してくれると信じています。
【演出:森新太郎コメント】
研ぎ澄まされた作家シーラッハの強靭な台詞と、そこに宿る重い問いかけに導かれ、余分なものを全てそぎ落とした、人間と言葉だけが息づき・ぶつかり合う、まだ誰も見たことのない舞台が誕生しました。これを実現するため、過酷な要求に応えてくれた俳優陣に心から感謝しています。
でも作品を完成させるには観客が席に着き、裁判に参加して下さることが不可欠。『TERROR』における一番の主役。結末を左右し、作品の持つ意味合いを変える力を持つのは観客なのですから。テロの暴力と不条理に向き合い、“演劇を越える演劇”をお客様に体験していただけたら幸いです。