作・前川知大
長塚さんとの共同作業はとても刺激的で充実した時間でした。俳優も魅力的な人が集まり、作家として稽古場に同席するのは、得がたい経験でした。この作品の大きな要素に、瞑想をはじめとするスピリチュアルな事柄があります。そういったものに抵抗感がある人もいるでしょう。実際登場人物も抵抗し、飲み込まれ、変わっていきます。人は変化を恐れながらも変化を求め、私たちはこのバランスの中で生きています。本来、変化とは楽しいもので、心に残る映画や演劇、芸術は、その人の何かを変えてしまう。劇中の(仲村トオルさん演じる)時枝のように、世界を変えようというのは極端ですが、お客様には、フィクションが描き出す【現実を揺さぶる力】のようなものを想像し、感じて、楽しんでいただければ幸いです。
演出・長塚圭史
前川知大氏は今をときめく人気劇作家、同業者でしかも同世代。つまり本来であれば互いの作品の気に入らないところを引っ張り出して論戦、と行儀良くゆけばまだいいのですが、取っ組み合ったまま土手から転げ落ちて当然の間柄。しかし前川さんと私は、深夜の居酒屋で掴み合わず、朝の喫茶店で穏やかに話し合い、前川氏が10年前に書いたという『PLAYER』なる奇作を机上に持ち込んで以来、長い長いお喋りを続けてきました。そしてこの長いお喋りは、とうとう前川知大の血肉となって戯曲に表出したのです。私の役割は作品と劇場を繋ぐこと。そういう心づもりのお喋りであったように思いましたが、打てば響く前川氏の柔軟性には何度も感心させられましたし、私にとってはこの目の前の台本から広がるものがすべて、これを全うすることが私の役割であると思い、この日を迎えました。
桜井道彦役・藤原竜也
今回は、稽古場で非常に贅沢な経験をさせていただきました。たとえば蜷川さんの稽古が<短期間で人生を駆け抜ける作業>だとしたら、今作の稽古は多くの時間を費やして、皆でじっくりとキャラクターの裏付けを考え、探っていく作業でした。圭史さんの稽古は新鮮であり、演劇の基本姿勢だとも感じます。また、難解な前川戯曲がそうさせているのかもしれません。そのホンで、皆で勝負しようと、圭史さんは僕らの前で迷いをいっさい見せることなく、最善の方向に向かって稽古を進めていってくれたように思います。僕自身は、圭史さんに自由に泳がされるようにして、楽しく稽古を重ねて来れました。面白いメンバーが集まっているので、それぞれのキャラクターに注目していただきたいと思います。
時枝悟役・仲村トオル
前川君の戯曲については、非日常、非現実風の “前川流SFラッピング”が施されてはいるけれど、その中身は意外とシンプルでトラディショナルなものなんじゃないかと感じています。「誰かに体を奪われて、自分ではない言葉を吐く」というのは、僕ら俳優が仕事でやっていることでもあるし、たとえば竜也君から蜷川さんの稽古場の話を聞くことで、自分はまったく経験のない蜷川さんの稽古場をチラッと覗き見した気分になるのも、同じようなことだなと。それは役者と演出家の関係だけでなく、一般社会の人間関係のいたるところで起こりうる感覚ではないでしょうか。圭史君の、緻密に計算しながらそれを見せない、“足跡を残さない演出”は面白いです。複雑な構造の作品ですが、観客の皆さんに、「何かはっきりとはわからないけど、とてもすごいものを見た」と思ってもらえたら嬉しいですね。
神崎恵役・成海璃子
実は今回の座組、藤原さん以外の皆さんとは全員「初めまして」なんです。異なるジャンルの方がそろっているので、稽古を見ているだけで面白い。特にトオルさんの不気味な演技はまったく想像できなかったので、瞑想の指導者・時枝が出て来ると「ステキだな~」と思わず眺めてしまいます(笑)。せっかくこういったお芝居に参加するので、楽日までに一度は、すうっと瞑想に入っていく体験をしてみたいです!
大河原和夫役・木場勝己
瞑想シーンなどの稽古をしている中で、ふと僕自身も中学生の時に、ちょっとスピリチュアル系の体験をしていたことを思い出したんです。それまでまったく忘れていたのに…。だからこのお話に呼ばれたのかな?ちょっと怖いけど(笑)。また稽古中、あるせりふを言った瞬間にヒヤ~っとしたことがあったんですよ。今しゃべったのは役の大河原和夫という俳優でもないし、僕自身でもない。別の誰かに言わされているような気がして……。憑依・虫の知らせ、夏に似合いそうな言葉が飛び交います。物語はスピリチュアルな世界ですが、その中でどれだけ「ドラマ」を生み出せるか。お客さんも一緒にヒヤ~を体感してみませんか。
東智子役・真飛聖
この芝居では、俳優が役に身体を浸食されるような、ちょっと恐いことが描かれています。でも実は、その感覚はどこか、分かるんです。本当にたまにですけれど「降りてくる」感じで、自分では考えもしなかった動きが自然にできることがありますから。そういった体験があると、役に認めてもらったような気がして、やはり嬉しいです。『プレイヤー』は一見、構造をヒモ解いていくのが難しい戯曲です。お客様にスッと理解していただくためにも、私たちの中できちんとクリアに理解して、リアルなものとしてお届けしないといけません。難しいからこそ、ハードルが高いことに取り組める幸せを、日々、感じています。