戦後70年を迎え、「平和」があまりにあやうく思える社会情勢だからこそ、危機感をもって18年ぶりにこまつ座が上演するという井上ひさし作こまつ座第113回公演・紀伊國屋書店提携『マンザナ、わが町』。公開稽古が行われ、演出の鵜山仁が意気込みを語った。
真珠湾攻撃後のアメリカにおいて日系人が強制収容所に送られたことを知る日本人は少なくなり、戦争法案やヘイトスピーチが問題となっている今。
本作は、太平洋戦争下に国籍や民族を越えて、ひとりひとりの人間として立とうとした日系アメリカ人の5人の女性の物語だ。
あらすじ
1942年3月、カリフォルニア州マンザナ強制収容所。
4か月前の真珠湾攻撃以来、日系アメリカ人に対する「排日」の気運は一気に高まっていた。特に西海岸に住んでいたおよそ11万人は、奥地に急造された10カ所の収容所に強制収容されることになった。
そのうちの1つ、スペイン語で「リンゴ園」という意味の名の土地につくられた「マンザナ収容所」。
砂漠の真ん中のバラックの一室に集められた5人の女性たち。
知的でリーダー格のジャーナリスト・ソフィア岡崎(土居裕子)、
日本への想いが人一倍強い浪曲師・オトメ天津(熊谷真実)、
物語の鍵を握る舞台奇術師・サチコ斎藤(伊勢佳世)、
アメリカでの成功を夢見続けているホテル歌手・リリアン竹内(笹本玲奈)、
撮影現場で悔しい体験を重ねてきた映画女優・ジョイス立花(吉沢梨絵)―――。
収容所長から彼女らに下された命令は「マンザナは決して強制収容所ではなく、集まった日系人たちの自治によって運営されるひとつの町なのだ」という内容の朗読劇『マンザナ、わが町』の上演。
日系人として受けた差別的な境遇を語り合い、自分の中の日本人らしさとアメリカ人らしさが明らかになるなかで、アメリカ建国の理念とは反している収容所を美化した台本の内容をめぐって激しく対立する5人。果たして『マンザナ、わが町』は上演されるのか。
出演は、土居裕子、熊谷真実、伊勢佳世、吉沢梨絵、笹本玲奈といったいずれも舞台、TV、映画など多方面で活躍する女優たち。年代もキャリアも異なる女優たちの出会いは、そのままマンザナの5人の女性たちの出会いに重なり、物語をくっきりと描き出すだろう。
写真左から 笹本玲奈 吉沢梨絵 土居裕子 鵜山 仁 熊谷真実 伊勢佳世
演出:鵜山仁コメント
『マンザナ、わが町』は、アメリカ市民でありながら、真珠湾攻撃以降の昭和17年に、収容所に入れられた日系人の女性たちを描いた作品です。彼女らは収容所に入れられたことはアメリカ合衆国憲法に違反している、ということを信条に現実を乗り越えようとしていきます。その彼女たちの理念も現実を乗り越える力になりましたが、アートにも現実を乗り越える力があるのだと描かれているのだと思います。何年かかっても、何世代にわたっても、現実を乗り越えていくことを可能にし、日本の見え方や人間の可能性を広げていく力があるのがアートだと思います。
井上ひさしさんの作品は、舞台の可能性が感じられる作品ばかりで、今回の作品は特に5人の女性たちでストーリーが展開してくユニークな作品だと思います。1970年代に描かれた作品ですが、これから先、何千年先までもつながっていくエネルギーがある作品ですので、ぜひそのエネルギーを観に劇場に足を運んでいただけたら幸いです。